キャリアコンサルタントの皆様、こんにちは。ビヨンド・ワーズの越です。
クライエントの苦しんでいる姿や、困難に直面している様子を目の当たりにすると、「なんとかしてあげたい」「自分が代わりに動いて解決してあげたい」という気持ちが湧き上がってくることがあるかと思います。クライエントへの深い共感と責任感があるからこそ生まれる、キャリアコンサルタントの皆様の温かい心は、クライエントを勇気づけるものだと思います。
先日の更新講習で、受講者の方からこんな質問をいただきました。
「キャリアコンサルタントが、クライエントに代わって会社の人事部とトラブル対応の交渉をしてはいけないのか?」
これは、キャリアコンサルティングの根幹に関わる重要なテーマですね。
皆さんは、どう考えて行動されますか?
私だったら、、、と考えると、キャリアコンサルタントがクライエントに代わって会社や人事部と交渉することは、原則として避けるべき行為ではないかと思っています。
1. キャリアコンサルティングの本来の目的
キャリアコンサルティングの最も重要な目的は、クライエント自身が自律的にキャリアを形成していく能力を育むことです。
単に目の前の問題を解決するだけでなく、クライエントが将来にわたって様々な課題に直面した際に、自力で考え、行動し、乗り越えていける力を養うことに重きを置いています。
もしキャリアコンサルタントが代理で交渉を行えば、クライエントは問題解決を他者に依存する姿勢を強めてしまう可能性があります。これでは、クライエントの自律性を阻害し、キャリアコンサルティングの本来の目的から逸脱してしまいます。
キャリアの課題は、会社との関係性だけでなく、自己理解、スキル不足、人間関係など多岐にわたります。これらの課題に自力で向き合い、解決していくプロセスこそが、クライエントの成長と自信につながります。
例えば、会社とのトラブルに直面しているクライエントがいたとします。単に交渉を代行するのではなく、キャリアコンサルタントはクライエントが自身の感情や状況を整理し、交渉の目的や具体的な方法を自ら考え、最終的に自らの言葉で会社側に伝えることができるよう支援します。
このプロセスを通じて、クライエントはコミュニケーション能力や問題解決能力といった、キャリアを築く上で不可欠なスキルを獲得することができます。
2. 非弁行為に該当する危険性
弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得て法律事務を行うことを禁止しています。会社とのトラブル交渉は、労働法規や雇用契約に関する法的解釈を伴う可能性があり、この「法律事務」に該当すると判断されるリスクがあります。
キャリアコンサルタントは法律の専門家ではありません。
安易に交渉を代行することは、クライエントに不利益をもたらすだけでなく、自身が法的な責任を問われる「非弁行為」に該当する危険性をはらんでいます。クライエントを支援する上で、私たちは常に専門家としての職域を認識し、その範囲を超える行為は厳に慎まなければなりません。
3. 会社に対して何もしない訳ではない
では、会社側に対して何もしないのか、というと、みなさんがどんな立場でその方のキャリアコンサルティングを行っているかによります。
会社からキャリアコンサルティングを請け負っている方であれば、その会社の制度や風土改善のために、人事部等への報告の機会を活用するのが良いでしょう。
どのようなレポートをするのかイメージがわかない方は、「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開をご確認ください。
キャリアコンサルタントにとって、個別の面談内容は、職業能力開発促進法第 30 条の 27 第 2 項により守秘義務の対象になりますが、キャリアコンサルティング面談により把握された組織的・全体的な課題の傾向や、本人同意に基づき企業へ伝えるべき事項については原則として報告対象となります。セルフ・キャリアドックの実施で、企業(人事部門)にとって必要となる事項は、人材育成ビジョン・方針や企業としての組織目標達成に向けて、また、
一人ひとりのキャリア充実の実践やその支援に向けての活動の進捗度合いや、逆にセルフ・キャリアドックの実施を妨げていたり、障害となる組織要因の把握事項などです。
引用:「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000192530.pdf
コンサルティング実施報告会を、キャリアコンサルティングを請け負っている会社と、対話を重ねながら職場環境を変えていく機会につなげていきたいですね!
まとめ
キャリアコンサルタントは、クライエントの「代わり」に動くのではなく、「伴走者」として、クライエント自身が歩むべき道を自ら選び、力強く歩んでいけるようサポートする存在です。
今回のコラムを通じて、皆様のキャリアコンサルタントとしての専門性の確立に少しでもお役立ていただければ幸いです。
過去のコラムご紹介
「50代のキャリア課題ってこんなことがあると思うのだけど、いい感じにまとめてくれない?」とAIに聞いたところ、素敵にまとめてくれました。

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